【ユーザーインタビュー】電気自動車のある暮らし vol.9
目指すは完全オフグリッド! カフェ&民泊のV2H体験ハウス
太陽光発電×EV×V2Hによる蓄電でオフグリッド暮らしを実現する費用、設置機器、維持費など詳しく聞きました!
電気自動車について調べていると、時折、出てくるのが「V2H」という言葉。V2Hとは電気自動車に蓄えた電力を家の電力として有効活用するためのシステムです。太陽光発電を組み合わせれば電気の自給自足、つまりオフグリッドも夢じゃない?! これをすでに実践しているのが山梨県忍野村にある「忍野オーガニックカフェ」の桑原文雄さんです。民泊もできるこのカフェでオフグリッドな暮らしを体験させてもらいました。
聞き手:上島寿子
撮影:杉田賢治
もくじ
築35年の家をDIYでカフェに
こんにちは。今日から1泊、よろしくお願いします。のどかないいところですね。
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桑原さん
今日は晴れているから富士山がよく見えたでしょ?
はい、山頂までバッチリ眺められました。富士山の伏流水が湧き出る忍野八海からも近いんですね。
桑原さん
河口湖や山中湖を観光しがてら来る方も多いですよ。
「忍野オーガニックカフェ」はいつオープンしたのですか?
桑原さん
去年(2021年)8月です。
開店したばかりなんですね。もともと忍野村にお住まいなんですか?
桑原さん
いえいえ、ここには去年の3月から住み始めたんです。今も練馬区に家があって、月2回は帰っています。
では、ご家族は東京に?
桑原さん
そう。僕1人でここに住んで予約制でカフェをやっています。
宿泊までできると聞いてびっくりしました。
桑原さん
1階がカフェの客席になっていて、2階に寝泊まりできる客室が2部屋あるんです。古い民家を借りているのですが、自由に替えていいというので9割は自分でリノベーションしました。
DIYなんですね。先に中を見せてもらってもいいですか?
桑原さん
どうぞどうぞ。
カフェスペースはオープンキッチンなんですね。
桑原さん
1階にはもう1つ、広めの客席があって、パーティーやイベントのスペースとして使おうと思っています。
2階の客間は畳なんですね。なんだか旅館みたい。
桑原さん
この家は前に牧師さんが借りていて、教会のメンバーの宿舎になっていたようなんです。
襖の絵が素敵ですね。鳳凰?
桑原さん
そうです。だから、鳳凰の間と呼んでいます。もう一つの部屋は葛飾北斎の「富嶽三十六景」を襖絵にしているので「富嶽の間」です。
洒落ていますね。そしてお風呂と洗面室は1階に。あ、この香りは檜ですか?
桑原さん
そう、檜風呂にリフォームしました。気持ちいいですよ。この浴槽を買ったときにヒノキ専門の木材屋さんと知り合いになって、端材をたくさんもらったので洗面台などは日曜大工しました。
そういえばたくさん積んでありましたね。
電気自動車×太陽光発電×V2Hで男のロマンを追求
ここはオール電化なんですよね?
桑原さん
エアコンも給湯機器もキッチンもすべて電気です。
その電力を太陽光発電で賄っているオフリッドハウスと聞いたのですが。
桑原さん
オフグリッドとは、グリッド、つまり電線を家に繋がず、電気を自給自足することを言うんですね。ここは電線には繋いであって、必要に応じて電気を買っているので完全なオフグリッドとはいえないのですが、極めてそれに近い形にはなっています。
つまり、電気を買わずに生活することもできる?
桑原さん
太陽光で十分に電気をつくれるときは自給自足できますよ。
太陽光パネルはどのくらいついているんですか。
桑原さん
出力約7.5kW分の太陽光パネルが南東と南西の屋根に載っています。パネルの枚数で言うと全部で21枚です。
一般家庭の太陽光発電は3〜4kWが主流と言われているので大きいですね。ただ、気になっているのは夜の電気。太陽が沈んだ後は発電できないですよね?
桑原さん
当然、発電はありません。なので、そのために設置したのはV2Hシステムです。
V2Hってよく聞くのですが、どういうシステムなんですか?
桑原さん
「Vehicle to Home」の略なんですが、これを取り付けると電気自動車に蓄えた電力を家の電力としても使うことができます。
カフェの前に日産リーフとミニキャブ・ミーブ(MINICAB-MiEV)が停まっていましたが、そこに蓄えた電気を家に送れば夜も電気を買わずに過ごせるということですね。
桑原さん
V2Hでも機種によって機能が変わるのですが、ここに設置したV2Hは太陽光発電でつくった電力を車の充電にも利用ができるんです。つまり、昼間につくった電力の余剰分を車に溜めておけば、車の走行だけでなく夜間の電力としても使うことができるんです。
まさに一石二鳥!ちなみに、最近は太陽光発電と組み合わせて使える家庭用蓄電池も販売されていますが、それとは何が違うのですか?
桑原さん
一般的な家庭用蓄電池の容量は4〜12kWhなのに対し、電気自動車は大容量です。僕の乗っている日産リーフなら40kWhありますから。それに定置型蓄電池は4kWhで100万円もしますし。
電気自動車と太陽光パネルがあるなら、V2Hシステムを入れないともったいないかも。
桑原さん
しかも、V2Hから電気自動車への充電は通常よりも早いんです。200V普通充電設備(3kW)の約半分の時間で充電することができます。
ますます入れないともったいないですね。
電気自動車を家の電力として使えるとのことですが、そのコントロールはどうやってするのですか?
桑原さん
家の中にあるコントロールパネルで簡単にできますよ。これがコントロールパネルです。
こんなに小さいんですか?うちの給湯用パネルと変わらない。
桑原さん
スイッチを押せば放電が始まって……。
あ、本当だ。車から電気が送られていますね。
桑原さん
月間の発電量や売買電などもモニタリングされているので簡単にチェックできますし、充電や放電のタイマーをかけることもできます。
このモニターに電気に関わるすべてが網羅されているんですね。
先ほどこの家は電線とつながっているから完全なオフグリッドではないとおっしゃっていましたが、電気を買うことも多いですか?
桑原さん
もちろん、雨の日など太陽光の発電が十分でないときは電気を買います。その場合もクリーンエネルギーを使いたいので、“Looopでんき”(グリーン電力・再生可能エネルギーRE100契約)を買っています。
Looopでんきって聞いたことはあるのですが、よくわかっていなくて。
桑原さん
太陽光をはじめとする主に自然エネルギーによって電気をつくる会社です。一般的な電気は火力発電や原子力発電でつくられていますよね。その工程では二酸化炭素や核廃棄物が排出され、環境に負荷がかかってしまう。
二酸化炭素は地球の温暖化の原因とされていますよね。
桑原さん
南極の氷はとけるし、巨大台風が多いのも温暖化の影響だと言われています。だから、太陽光発電をベースにしながら、買う電力についても二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーを使うようにしているんです。
エコな暮らしを徹底しているんですね。
桑原さん
このカフェをオール電化にしたのもそのためなんですよ。二酸化炭素を排出するガスや灯油・ガソリンなどの化石燃料を使わずに生活することで、ゼロエミッション、つまり環境に負荷をかける排出をなくす暮らしを実現したいと思ったからなんです。
つまり、ここはゼロエミッションハウスでもあるわけですね。
桑原さん
全国でもゼロエミッションを達成できている人は少ないと思いますよ。
素晴らしい!
電気自動車からエネルギー問題に開眼
ところで、桑原さんはなぜエコを意識するようになったのですか。
桑原さん
そもそものきっかけは電気自動車を買ったことですね。
いつ頃買われたのですか?
桑原さん
12年前です。
じゃあ、電気自動車が出始めたばかりの頃に。
桑原さん
最初に乗ったのは三菱自動車のi-MiEV。当時、電気自動車は夢の車と言われていたのでテレビの取材が来たり、道端に停めていると子どもが寄ってきたりとすごかったですよ。
電気自動車に乗っているというだけで!?
桑原さん
それだけ珍しかったんです。
どうして電気自動車に乗ろうと思ったんですか?
桑原さん
意識の変化ですね。18歳で免許とってから、車は30台以上乗り継いだかな。もちろん、すべてガソリン車。どんどん乗る車のランクが上がって、BMWの7シリーズを買ったんです。
最上級クラスですね。
桑原さん
ベンツのSクラスと肩を並べる乗用車の最高峰と言っていいと思いますね。その上となるとスーパーカーしかない。
乗り心地もよさそうですが。
桑原さん
もちろん、快適ではあるのですが、7km/ℓと燃費はよくない。この車に乗っていてあるときふと、「こんなでっかい車を一人で転がして、なにが楽しいんだろう」と思ったんです。ガソリンを振りまいて、ただ地球を汚しているだけじゃないかって。
車を極めてみたら疑問が湧いてきたんですね。
桑原さん
そこからダウンサイジングを始めて、行き着くところはもはや最もコンパクトなSmartしかなかった。そのときに電気の軽自動車、i-MiEVが発売されるという噂をきいて。電気で動く車に乗ってみたいと思ったんです。新しもの好きでもあるので。
電気自動車に乗った感想は?
桑原さん
一発で虜ですよ。車好きは軽自動車に抵抗があるものですが、まったく関係なかったです。
どんなところがよかったのですか?
桑原さん
エンジン音がせずにとにかく静か。しかも、踏んだら踏んだだけすぐに加速するし、アクセルを離せば回生ブレーキ(※)がかかってスムーズに減速する。運転が面白くてね。
※回生ブレーキとは、車を減速させるときに生まれる運動エネルギーを電気として取り戻せる電気自動車やハイブリッドカー特有のシステム。アクセルを離すだけで、自動的にバッテリーに蓄電されます。
走行性に夢中になったんですね。
桑原さん
ランニングコストも段違いでしたね。当時、i-MiEV はリースしかなくて、リース代は毎月5万円。充電の電気代も月2000〜3000円と安かった。BMWの7シリーズはガソリン代だけで毎月5万円かかっていましたから。
ガソリン代で電気自動車に乗れたんですね。
桑原さん
スムーズな走り、経済性、それに最先端の車にのっているという満足感もあってすっかりハマりました。
まさに一目惚れですね。
桑原さん
ポルシェのボクスターを買おうとしながら、最終的に、i-MiEVを選んだ車仲間がいるんですが、彼はこう言ってました。「ボクスターにはパワーを感じるけれど、i-MiEVにはインテリジェンスを感じる」って。その気持ちがよくわかりました。
出始めの電気自動車はバッテリーの容量が小さかったと思うのですが、不便はなかったですか。
桑原さん
むしろその不便さを楽しんでいましたね。充電設備も数えるほどしかなかったのですが、そこを繋ぎながらいかに遠くまでいくかを考えるのが面白かったんです。
暖房を使うと電気の減りが早いと聞きますが。
桑原さん
冬は厚着をして暖房なしで乗っていましたよ。オーバーパンツを履いて、帽子、手袋も欠かせない。足元が寒いのでシガーソケットからインバーターにつないで、パネルヒーターをつけたり。そういう工夫も楽しかったんです。
以来、ずっと電気自動車ですか?
桑原さん
電気自動車を乗り継いでますね。
どのような車に乗ってきたのですか?
桑原さん
i-MiEVの後はSmartEDに乗って、その後がBMW i3。そして、初期型の日産リーフZE0の後に、現在、乗っている40kWhのリーフZE1と16kWhのミニキャブミーブ(minicab-MiEV)を買いました。
12年の間にそんなに!
桑原さん
実は今、i-MiEVのタイプMも持っているんです。娘が乗りたいというので買い直しました。
まさにお父さんの影響ですね。もうガソリン車に戻れない?
桑原さん
ガソリン車に乗ると気持ち悪くなるんですよ。アイドリングのときのグワーンという音が苦手だし、排気ガスも気になるし。乗っているとイライラしてくる。だから間違いなくガソリン車に戻ることはないですね。
V2Hと電気自動車があれば
ZEH住宅でなくてもオフグリッドは実現できる
電気自動車の虜になったというのは愛車履歴でもよくわかるのですが、そこからどうしてオフグリッドハウスをつくることになったのでしょうか?
桑原さん
考え始めたのは5年ぐらい前ですね。練馬の自宅にはもともと太陽光パネルがついていたのですが、新たにV2Hを設置して電気自動車と連係させたんです。
V2Hに目を向けた理由は?
桑原さん
環境を守りたいという気持ちから電気自動車に乗っていても、「電気をつくる段階では二酸化炭素を出しているじゃないか」と言われてしまう。それがすごく嫌だったんです。だったら太陽光のクリーンエネルギーで走ってやろうじゃないかと。
徹底しようと思ったんですね。
桑原さん
実際にV2Hを入れてみたら、これはすごいことができるぞという思いが強くなって。オフグリッドハウスがつくれると実感できたんです。
それが「忍野オーガニックカフェ」につながっていくわけですね。
桑原さん
電気代ゼロにするにはどうしたらいいのか。このことを追求するのは、男のロマンでもあるんです。
かっこいいですね。1つ、疑問なのですが、オフグリッドハウスをつくるというだけなら、別荘でもいいわけですよね?カフェという形にして民泊まで始めたのはどうしてですか?
桑原さん
実は電気自動車に乗り始めた頃から、僕は「EV OWNERS CLUB」というサイトを運営してきたんです。電気自動車のオーナーや電気自動車に興味を持つ人たちの交流サイトです。
そういう活動もされているんですか。
桑原さん
このサイトは電気自動車がもっと世に広まるようにという思いから始めたもので、箱根や小田原など各地で試乗会やカンファレンスも開いてきました。
啓蒙活動ですね。
桑原さん
このサイトを立ち上げて10年経ち、世の中は着実に電気自動車にシフトしている。2030年にはガソリン車の販売終了が打ち出されているわけですから。つまり、我々が啓蒙をしなくても自動的に電気自動車にシフトしていくところまできているんです。
次のステージに移った?
桑原さん
そうですね。じゃあ、次に僕ができることはなにかを考えると、太陽光のようなクリーンエネルギーを電気自動車と連動させて広めていくことだと思ったんです。
まずはご自身で実践して、それを世に広めようと?
桑原さん
V2Hシステムって目に見えるものではないので実感しにくいんですね。導入している人がいたとしても、いきなり見学しにいくわけにはいかないですし。その点、ここは誰でも見に来られて泊まって体感もできる。もちろん、僕の経験からアドバイスもできます。目指しているのは、V2Hのショールームなんです。
素晴らしいアイデアですね。
桑原さん
もちろん、EVユーザーの情報交換の場にもなります。昔から溜まり場がほしいと思っていたので。
電気自動車に初めて乗る人にとって、先輩ユーザーと交流できるのはありがたいと思います。
桑原さん
電気自動車に乗ると、それまでとは違うコミュニティが生まれて楽しいですよ。
ちなみに、V2Hってメーカーのショールームはないのですか?
桑原さん
ないですね。V2Hは目下、「ニチコン」というメーカーの独擅場なんです。日産ではかつて「LEAF to Home」というEVパワーステーションを販売していましたが、現在は生産が終了している。三菱電気も撤退してしまったし。
1人勝ち状態で普及の努力がされていない?
桑原さん
のんびりしている印象はありますね。
ところで、最近、ZEH(ゼッチ)住宅が注目されていますよね。省エネ効率を最大限に高める一方で、太陽光発電システムなどの導入で消費エネルギーを上回るエネルギーをつくり出せる住宅のことですが、ZEH住宅を建てることは考えなかったのでしょうか。
桑原さん
確かにZEH住宅ならオフグリッドやゼロエミッションは実現しやすいと思います。ただ、僕はむしろ普通の住宅でも目指せるということを示したかったんです。ZEH住宅を新築するとなるとハードルが高いけれど、普通の住宅をリノベーションするだけで実践できるなら身近になるじゃないですか。
そういう意図があったのですね。納得しました。
太陽光パネルとV2Hの設置費用は10年で回収可能
V2Hシステムの魅力はよくわかったのですが、気になるのはやはり費用です。伺ってもよいですか?
桑原さん
まずカフェのオープンにかかった費用からいうと1000万ほど。水回りの設備や内装などをリノベーションしているので、それにかかった費用も含めています。
DIYでもやはりそれなりにかかるんですね。
桑原さん
費用の一部はクラウドファンディングで募ったんです。カフェの利用券やオフグリッド・ゼロエミッションセミナー参加券などをリターン商品にしたのですが、147万8000円集まりました。
みなさん、関心があるんですね。
桑原さん
1000万のうち、太陽光パネルの設置にかかった費用は7.5kWで180万円で、V2Hシステムの設置が300万円です。
総費用の半分弱。やはり高いのですね。
桑原さん
ただ、僕が入れたV2Hはニチコン製のトライブリッド蓄電システムというちょっと特殊なものなんです。
太陽光の電力を車に充電する場合、一般的なタイプは直流を交流にしてまた直流にして充電することになる。すると、充電できる電力が発電量の64%に落ちてしまうんです。
もったいないですね。
桑原さん
その点、トライブリッドなら元の直流のまま充電できるので95%を維持できる。効率がいいのですが、その分、初期投資にお金がかかってしまう。
一般的なタイプならもっと安い?
桑原さん
ローコストのタイプなら工事費込みで130万円ぐらいでつけられると思いますよ。つまり、太陽光パネルと合わせれば300万円ほどで設置できる。
V2Hには国の補助金が最大105万円あり(条件付き)、自治体の補助金が出る場合もありますよね。太陽光発電にも自治体の補助金があるから、実質、半値ぐらいでつけられる。それなら検討する人も増えそうですね。
桑原さん
たとえば、300万円まるまるかかったとしても、僕の試算では10年でペイできる。
わずか10年で!
桑原さん
ガソリン車に乗って、家は電気とガスの併用している近隣の人たちに光熱費をリサーチしてみたんですよ。すると、ざっくりならすと、毎月4万円はかかっている。一方、僕の場合は、平均すると電気代は月額8000円〜1万円。つまり、3万円ぐらい浮いているんです。
それをV2Hや太陽光発電に投資したと考えれば……。
桑原さん
そう。10年で回収できるわけです。今、いくらかかるかではなく、長い目で考えてほしいですね。
農業体験で食糧問題への関心も喚起
桑原さんは練馬区にご自宅があるとのことですが、どうして忍野村にカフェをつくったのですか?
桑原さん
僕はリタイアするまでプロモーション会社や人材派遣会社などを経営していたのですが、仕事の合間に畑で野菜をつくっていたんです。
農業が趣味だった?
桑原さん
そうなんです。そのスタートが山梨県の道志村。ここの体験農園で3〜4年ほど野菜づくりをして、その後、神奈川県御殿場市で2反歩の畑を友人と共同で借りて。畑に通うときには山中湖の宿に泊まっていたのですが、毎回、泊まると費用もバカにならない。そこで山中湖にマンションを買ったんです。バブル期に建ったマンションが安く売り出されていたんです。
山中湖に拠点を持ったんですね。
桑原さん
御殿場の畑は3年ほど続けて、その後、河口湖の農家さんと知り合いになり、今度は仲間と一緒に農地を借りて富士河口湖農園を始めました。ここでは野菜だけでなく、田んぼでお米もつくっているんですよ。
山梨との縁が深まったんですね。
桑原さん
だから、河口湖や山中湖の近辺で物件を探して、たまたま見つけたのが忍野村のこの借家だったんです。条件はぴったり。しかも、持ち主は違うのですが、運良く隣の土地も借りられました。
ラッキーでしたね。
桑原さん
とりあえずビニールハウスを建てましたが、これから土づくりをして、オーガニックでいちごやトマトなどをつくろうと思っています。カフェに来た人たちには野菜の収穫体験もしてもらいたいと思っているんです。
エネルギーだけでなく食でも自給自足を目指している?
桑原さん
すべては難しいですが、できるだけ近づけていきたいですね。これから食糧不足は切実な問題になっていくと思うんです。今の子どもたちの世代で食糧が足りなくなるという見方もあります。日本はもともと食糧の自給率が低いので、自分が食べるものは自分でつくるという発想が広まっていかないといけないと思いますね。
前の畑がその啓蒙の場になるんですね。
桑原さん
それに、自分でつくった野菜やお米って、苦労が入っているから気持ち的にもおいしく感じるんですよ。
カフェの料理は桑原さんがつくるんですよね?
桑原さん
はい、もちろん。カフェではランチやスイーツを出しています。宿泊する場合は夕食と朝食をつくります。
料理も得意なんですね。
桑原さん
素人料理ですけどね。今日は宿泊されるとのことだったので、夕食には鴨ねぎ鍋と山梨名物のほうとうを用意しました。
わぁ、豪華ですね。
桑原さん
鴨鍋の鴨肉はハンガリー産なんですが、だしには国産の合鴨をつかっています。埼玉県の熊谷で友人が合鴨農法で米づくりをしているので。野菜はすべてオーガニック。今は買ったものが多いですが、ゆくゆく自家栽培のものを使っていきたいですね。
鴨ねぎ鍋はきのこがたっぷり入っていますね。
桑原さん
きのこもいいだしが出るんです。鴨肉はまずねぎと、その後、レタスを軽く煮て一緒に食べてみてください。
2通りの食べ方ができるんですね。ほうとうも野菜たっぷりでおいしそう。
桑原さん
ほうとうの味噌は自家製ですよ。自分でつくり始めて4年目ですが、年末になると「味噌を仕込まなきゃ」と思うようになりました。今年は大豆も麹もすべてオーガニックでつくりました。まさに手前味噌ですが、香りがすごくいいんです。
手づくり味噌を仕込むワークショップとか、食のイベントを開く予定もあるんですか?
桑原さん
開いていきたいですね。昨年の年末には知り合いを招いてもちつきをしたんですよ。もち米は河口湖で農家さんと一緒につくったもの。おいしかったですね。
外にピザ窯もありますよね?
桑原さん
友人がつくったんです。ピザパーティーを何度か開いてます。内部に火をまわすのが難しいので、窯をつくった友人が焼いてくれたのですが。
子どもが喜びそう。オフグリッドやゼロエミッションと聞くと構えてしまいますが、そういうイベントに参加しがてらカフェを見学すると距離が一気に縮まりそうですね。
あとがき
「忍野オーガニックカフェ」にお邪魔して最も実感したのは、電気は「買う」から「創る」時代になっていること。V2Hのような自然エネルギーを活用するためのシステムの進化もリアルに感じることができました。電気自動車はそんな時代の立役者。蓄電池としての機能はこれからますます注目されていきそうです。次回はオフグリッドハウス&ゼロエミッションに泊まった感想を交えつつ、「忍野オーガニックカフェ」の桑原さんに冬を乗り切るための工夫を伺います。
V2Hを活用したオフグリッド&ゼロエミッションハウスで暮らしはどう変わる?
Data
忍野オーガニックカフェ
住所:山梨県南都留郡忍野村内野4595-2
電話:090-4454-3825
Webサイト
料金
ランチ:和洋中コースにて2,000円~
ディナー:和洋中コースにて3,000円~
宿泊:1泊素泊まり4,000円/1人(+1,000円で朝食付き)
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